Fairy Tale ３
アスランの傷の経過は、良くはなかったが、悪くもなかった。
確かに右腕は腐らずに済んだけれど、それでも噛まれた二の腕から先の感覚がない。もちろん、動かない。
足も駄目だった。感覚はある、全く動かないわけではない。しかし、立ち上がることができない。
「左腕と胸があれば十分だろう？お前を抱いてやれるんだから」
「両手がいい・・・」
「我侭を言うなよ」
右手に鼻先を寄せて、くんくんと鳴くシンの頭を、アスランは左手で撫でてやる。
右腕を噛み砕いたシンへの恨みはなかった。もともと、シンが欲しがらなければいらない体なのだ。
なくていい、存在なのだ。
「ごめん・・・」
言ったシンが、するりと横たわったままのアスランの胸元に、頬をすり寄せた。
素肌の上に羽織った軍服を噛んで、ぐいぐいと引く。
それは、まるで子犬が甘える仕草で、とても可愛いのだけれど。
「噛むなよ・・・これがなくなったら、俺は何を着ればいいんだ」
前に着ていた服は、ぼろぼろになってしまっていて着られない。
シンが、落ちてきた死体から剥ぎ取った服を集めて寝床にしていて、そこからまともな服を探し出すのは、骨の折れる作業だった。
ズボンは人間と同じ姿を取った時に穿くので、シンも気をつけて剥ぐのだけれど、上着は好きに破くから、一枚でもまともなものが見つかったのは、かなりの幸運だった。
「別に着なくっていいじゃん。その方が気持ちいい」
「好きにしてくれ・・・」
実際、まだ怖くて右腕に袖を通していない。ほとんど、素肌に上着をひっかけただけの状態なのだ。アスランは投げやりに、胸に懐いたシンを抱き寄せた。
あたたかい。
何故か、それが急に胸に染みて、ほろりと涙がこぼれた。
「アスラン？」
少年の熱い舌が、その涙を舐め取る。
心配そうに覗き込む、真っ赤な瞳。
その縁に、唇を寄せる。
すぐにまた、その唇も舐められて、痛みの引きかけた体の上、少年の姿をした獣が圧し掛かる。
彼は、いつものように体中の傷跡に舌を這わせ、そうして腰の裂傷から、足の間へと顔を埋めた。
「シン、そこはもう、いいから」
「なんでだよ。まだ痛そうだ」
「痛くない、から。頼む」
むー、と小さく唸ったシンは、すぐに止めて、足の傷を舐めていたけれど。
また、すぐにそこに鼻先を突っ込んで。
「シン・・・・」
アスランは一応抗議の声を上げたが、それは酷く投げやりで。
だからシンは、まったく意に介さず、そこをぺちゃりと舐めて言った。
「なあ、あんた、ここでシたの？」
「っ、なんで、そんなこと知ってるんだ・・・」
頭を抱えたアスランは、敏感な場所に舌をねじ込まれ、ふるりと体を震わせる。
「だって、ニオイしたし」
そうしてシンは、そこから顔を上げて、アスランの瞳を覗き込んだ。
「なあ、シたら痛い？」
「したいのか？」
「うん。ちょっと」
それは、ただの好奇心いっぱいな少年の顔。
こんな、暗い洞窟よりも、明るい日の光のほうが、ずっと、似合う。
それを、アスランはひどく哀れだと思った。
「いいよ。・・・俺は、お前のものだからな」
好きにしろ、と言うアスランに、シンは打って変わって情けない声でくんくんと鳴いた。
「痛くない？」
それに、くすりと笑って。
「ちゃんと、慣らしてくれれば大丈夫だ。傷も、もうだいぶいいだろう？」
そうして、左手で、シンの頭を撫でてやって。
「いいの？これで」
「いや、見えないんだが。そんなに痛くはないしな」
よく、『痛みに鈍い』と言われていたことを棚に上げ、アスランは軽く請合う。
シンは、今はない尻尾をぱたぱたと振りそうな顔をして、アスランの喉元をぺろりと舐めた。
「あんた、大好き」
それを聞いたアスランは、大きく目を見開いて。
それから、くしゃりと顔を歪ませて、そうして左手で抱き寄せたシンの頬に、キスをした。
シンはぱっと顔を輝かせ、ぺろぺろとアスランの顔中を舐めまわす。
それから、また、下肢に鼻先を突っ込んで。
「んっ・・・歯、立てるなよ・・・」
「んー？」
何をどうやっているのか、時折、鋭い牙が当たる。
それでもシンはぐいぐいと舌を押し込んで。
「はっ・・・・」
ちゅる、と、唾液の糸を引いて引き抜かれる頃には、アスランのそこはすっかり潤い、シンは、脚の間で荒く息をついた。
「あ・・・、あんた、気持ちいい？」
そうして、目の前にそそり立ったものに目を見張り、それにも舌先を触れさせる。
「シンっ、それは、いいから・・・」
アスランはそうかすれた声で言い、シンの髪をきゅっと掴んだ。
シンを抱いてくれる、シンの大好きな左手。
気持ちよさに、目を細めて。
「じゃあ・・・いただきます」
シンのセリフにアスランは笑い。
それから、進入してくる熱に、高く声を上げた。
「あっ・・・・」
「うわ」
ずるずると、シンを飲み込んでいく、熱い肉。
気持ちよくてどうにかなりそうだ。
初めて感じる快楽に、シンは手加減など思いつきもしないまま、ぐいぐいと腰を使ってその心地を楽しんだ。
押し込めば、弾力のある肉の内、柔らかい襞が迎えてくれて。
引けば、その襞が絡んで、じゅくじゅくと音を立ててシンを引き止めてくれる。
「アンタ、すっげ、気持ちいい・・・・」
「あっ、あぅ・・・っ」
アスランの左手は、ぎゅうぎゅうとシンの背に縋っていた。
アスランは、体全部で、シンを受け入れてくれていた。
それが、凄く嬉しい。
気持ちいい。
ずっとこうしていたい。
この人、ぜんぶ俺のにしたい。
俺のだ。
俺の・・・
「ああっ、ひ、っく、シン・・・っ」
知らない間に、アスランの肩口に牙を埋めていたシンは、その悲鳴に背筋を貫かれるように達していた。
そうして、我に返って。
慌てて、牙を抜いて。
「うわっ、ごめん！」
「・・・いや・・・・・」
よくよく見れば、ひくひくと身を震わせたままのアスランのそこも、アスラン自身の放ったもので濡れている。
「気持ちよかった？」
思わずそう聞けば、力ない左の拳がぱこんと頬に当たって。
「聞くな・・・っ」
「ああ、うん。ごめん」
とりあえず、噛んでしまったのは自分なのだから、自分が悪いのだろうと見当違いな結論を出し、シンはぺろぺろと血の浮いた肩を舐め清めはじめる。
「このばか・・・」
「馬鹿ってなんだよ。・・・ああもう、今度は噛まないよ！」
そう、高らかに宣言したシンに。
アスランは、一度だけ驚いたような顔をして。
「・・・ああ、今度は、な」
そう言って、シンの首を抱き寄せて、自分の血の付いた唇にキスをした。